自然と家族とみんなで育てた桃

クライアント:三森ファーム

山梨県甲州市塩山三森ファーム

「ほら、この斑点。炭疽病(たんそびょう)ってやつ。」
枝をそっと持ち上げながら、三森さんが言いました。
深刻な話のはずなのに、口調はどこか明るいような。

「去年は八割やられたけどね、まあ自然相手だし。甘い桃ほど、みんなに狙われるんだよ。」
“みんな”というのは、虫も、鳥も、熊も、そして人間も。

畑を歩くと、太い幹から横に伸びた枝が、のびのびと横に、横に葉を広げていました。

桃の木は3mほど。思ったよりも背が低いのは師匠の南さんの教えとのことでした。

なんと1本の桃の木から1000個以上の桃ができるそうです。「師匠の桃は1400個くらいできるんだ」と、まだまだ先を目指せる道があることを楽しみだと話す三森さん。


「素人だと切っちゃいそうな枝にも、ちゃんと役目がある。木を太らせるには、こういう根本にある下の枝も大事なんだ。」
葉の奥に潜む小さな桃の実を、子どもの頭を撫でるように優しく触れていました。

「熊も桃が大好きでね、種だけ残してきれいに食べるんだ。鹿はこんなにきれいには食べない。なんだか可愛いでしょ。」
そう言って笑う顔は、自然や動物による変化も受け入れるような大きな笑顔。

「熟す前の実も、使ってくれる場所があるから出荷するんだよ。無駄にしないって大事だろ?」
柔らかな風に乗って、甘い桃の香りがふわりと漂ってきました。

もともとは宅配便の配達員だったという三森さん。
「農家さん回ってるうちに、自分でもやりたくなっちゃってさ。土地も機械も自分で揃えて、気づいたら“初代”になってた。」
語るその声には、迷いよりも楽しげな響きがあります。

10年先を見越して枝を伸ばし、切り、また伸ばす。
冬の寒さも、夏の日差しも、彼にとっては全部が桃を育てるためのパズルのピースだ。
「桃って手がかかるけどさ、そのぶん甘くできたときは最高なんだよ。」

丁寧に、丁寧に、ひとつひとつの仕事を丁寧に向き合った先においしい桃ができる。

──夏の朝、葉の影でほんのり色づいた桃に手を伸ばす瞬間。
指先に伝わるやわらかな弾力、産毛の奥から立ちのぼる香り。
その一口には、季節を越えてきた時間と、作り手の笑顔がぎゅっと詰まっている。

「ーーーーいい桃だ。」

三森さんの心の底からこぼれた声を受け取って、どんな料理にしよう。

みなさんも、このあと口にする桃を、心ゆくまで味わってほしい。
その甘さの向こうに、畑での会話と風の匂いが、きっと感じてもらえるはず。

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