食事を通して会社の文化を共有することへの挑戦

第1回は、現在外資系IT企業で企業文化やコア・バリューが息づく環境をつくる仕事を担当している社内コミュニティーマネージャーのTetsuさんにお話を伺いました。Tetsuさんは現在、副業としてEC物販事業、外資系企業の採用コンサルティング、千葉木更津でドッグラン事業「Kisarazu House」の経営に挑戦しています。今回のインタビューでは、FOOD STORY PROJECTが参加したフードプロジェクトや、食を通じた会社のコミュニティ醸成、職場と”食”の関係性と意義についてお話しいただきました。

Points

プロフィール

IT外資系企業で10年間中途採用担当を務め、直近10年間は企業文化やミッションドリブンな組織作りに携わっている。現在は社内コミュニティマネージャーとして、社員が能力を最大限に発揮できる職場環境作りに取り組んでいる。プライベートでは、2023年から木更津で「Kisarazu Houseドッグラン」を経営。ワンちゃんとその飼い主が幸せに暮らせる社会を作りたいという思いをカタチにしている。趣味は海外旅行や人と交流すること、そしてわんちゃんが大好き。現在、2歳のフレンチブルドッグのLOVELと、6ヶ月のSKYと一緒に暮らしている。

ワンちゃんとの出会いが働き方を変えた

Risa:Tetsuさんが現在の働き方に至ったきっかけは、ワンちゃんだったと伺いました。 

Tetsu:そうなんです。前職の外資系企業で働いている時に2匹のフレンチブルドッグ(ラブルとスカイ)を迎えたのがきっかけです。

Tetsu:コロナ期間中は在宅勤務が続き、犬と過ごす時間が増えました。次第に出社日が増える中で、どうすれば大切な犬たちともっと一緒に過ごせるか考えるようになり、いろいろなことが重なりドッグラン経営の話が現実味を帯びてきました。そこで2023年5月に独立し、ドッグラン事業をスタートしました。

Tetsu:1年前に始めたドッグランを、現在は素晴らしい仲間7人のチームで運営しています。私自身は週に2回、木更津のドッグランで週末のオペレーションを担当し、平日は東京からドッグランのイベント企画、SNS運用業務をしながら外資系企業での文化形成支援、オンライン物販、中途採用支援を行っています。 

Tetsu:土日は飼っている自分のワンちゃんと一緒に過ごす時間があるので、木更津でドッグランを運営しながら彼らと遊んでいます。直近1年間は1日も休むことなく稼働していますが、今までにないほど充実しています。一方、平日は複数のクライアント様に対してこれまでの経験を活かした新しい挑戦ができる環境で働いています。

ヒューマンセントリック(人間中心)なエクスペリエンスデザインを軸とした社内コミュニティマネージャーの役割

Risa:仕事で大切にしていることや基盤となっていることはありますか?

Tetsu:私の仕事の基盤は以前の職場での経験にあります。前職での役割は、現在では認知が広がった職種のコミュニティマネージャーに相当し、従業員エンゲージメントのスペシャリストでした。当時はカスタマーエクスペリエンスを専門とするチームがあった一方で、社内の従業員体験に特化したチームは存在しませんでした。人事やトレーニング部門とは異なるアプローチで従業員をサポートする必要があり、そこで「グラウンドコントロール」という企業文化に焦点を当て、従業員体験を向上させる役割を担いました。

Tetsu:グラウンドコントロールの役割として、オフィスカルチャーとオペレーションの責任を持ち、従業員エンゲージメントの最大化を目指しました。社内イベントやコミュニケーション戦略を通じて、企業のミッションや組織を動かす根本原則や信条を体系化し、コアバリューを醸成すること、そしてお互いを結びつける重要な役割を果たしました。現在の仕事でも、この基本的な考え方は変わりません。

Risa:会社と従業員のパフォーマンスを最大限引き出すというイメージですね。それでは、私が作ったお弁当を食べながら、さらにお話を伺いたいと思います。

Tetsu:美味しそうですね!ありがとうございます。

Risa:今日の「おかえりごはん」は八丁味噌で煮込んだハンバーグと卵焼き、梅酢のキャロットラペ、ベイクドポテト、小松菜の胡麻和えです。私たちは日本の調味料を使いながら、旬に合わせた食材を直接生産者さんから仕入れてごはんを作っています。八丁味噌は愛知県で作られているものですが、煮込みにいれると長時間煮込んだ味わいになるので、ぜひ食べて見てください。

組織において「共有したい/共有すべき」価値観を定め、それを社内の日々の活動を通じて「習慣化」することの狙い

Risa:ところで、グラウンドコントロールの土台は、会社と従業員が、そして従業員同士がカルチャーを共有するということですね。

Tetsu:その通りです。従業員と会社が共に歩むグラウンドコントロールとは何か、そしてコアバリューを体現するとはどういうことかを考えたとき、大きな可能性を感じたのが「食」でした。食を使ったプログラムが会社に与えるインパクトは非常に大きく、会社のコアバリューと共鳴する部分がありました。一般的に「食」は福利厚生として扱われることが多いですが、当時の会社では「食」の位置づけが福利厚生ではなく、「ツール」として活用されていました。例えば、食事を通じて会社と従業員のストーリーをどう繋げていくかに重点を置いていたので、食は単なる福利厚生ではなく、企業のミッションを達成するための重要な「ツール」として活用しました。

Tetsu:具体的には、食事のプログラムを通じて、会社のカルチャーを共有し、社員同士の繋がりを深めることを目指しました。たとえば、食を接点に社内イベントを設計したり、部署を跨ぐコミュニケーションを発生させるために食をツールとして活用したりしました。これにより、部署や役職を超えた関係性の社員同士が同じ目線でコミュニケーションできる繋がりを深めることを目指しました。

Risa:「同じ目線で話ができる環境」を、グラウンドコントロールチームが意図的に自然発生させていく。そのプロセスに「ツール」としてのフードがあったんですね。

Tetsu:その通りです。ただし、単にお弁当を提供するのではなく、ビュッフェスタイルや料理やレイアウトなどを意図的に選びながら設計することで従業員への伝わり方が大きく異なります。食事を共にすることで自然とコミュニケーションが生まれ、心理的な距離が縮まります。

Risa:私はTetsuさんのプロジェクトに参加した際、「一緒にご飯を囲む」ことの大切さが非常に印象的でした。レストランでしか料理をしてこなかった私には、ご飯が仲の良い人たちと食事する以上の価値があるとは思っていませんでした。しかし、当時の会社で料理を提供する際に、自分が作った料理が単なる食事以上の意味を持つかもしれないと気づきました。それが自分の活動の起点になっています。

Tetsu:そのように感じていただけて嬉しいです。また、組織のグラウンドコントローラーとしての大きな課題は、心理的安全性をどう確保するかです。会社やチーム、個人の心理的安全性を確保するのは非常に難しいですが、そのギャップを埋めるためには、職場でありながら職場でないような関係性を築くことが必要でした。たとえば、家庭での団欒のように、会社における日々の朝食やランチが心地よいものになるように工夫しました。

Tetsu:また、共有できるトピックも重要です。食事であれば「美味しい」という感覚を、今日入社した新人と社長が共有できるようになります。共有できるものがあることで、心理的な距離が縮まり、その関係性がパフォーマンス向上に繋がると考えています。つまり、食を提供することは単なる食事以上の意味を持つのです。

職場で同僚たちと食事を共にすることが、人種や文化の違いを超えて団結力や理解を促進する重要な役割を果たす可能性がある

Tetsu:食事における「美味しい」という感覚は、肩書きや国境を超えた共通の言語です。肩書きや国籍に関係なく、誰もが共有できるのが「食べる」という体験です。「美味しい」という言葉で繋がると、今日入社した新人と社長であっても、どんな人種であっても共通の「美味しい」を基に会話が生まれます。これにより、同じ目線でのコミュニケーションが可能になります。

Risa:文化の違いがあっても、「美味しい」という共通言語があれば、その話題をきっかけに会話が広がり、相手の個性が見えてきます。例えば、ある職場では、ビュッフェスタイルの食事が提供されることで、普段は話しかけづらい人とも自然に会話が生まれ、従業員同士の関係が深まったという結果が出ています。このように、職場で一緒に食事をすることで、「働く」「食べる」以上に、「自然と人が繋がる」「誰とでも同じ目線で共有できる」という大きな可能性があるんですね。

最後に

Risa:私もTetsuさんの職場でケータリングを提供した際、食事を通じて従業員同士の会話が広がる様子を見て、非常に大きな気づきを得ました。今日のお話を伺い、食事の場のあり方や、食を通じた人との繋がりについて改めて振り返ることができました。ありがとうございました。

interview:Risa Sugawara

photo:Keisuke senoo

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